賃貸物件の修繕費、大家が負担する範囲と、経費計上の方法
賃貸経営は、安定収入を得られる魅力的な投資手段ですが、建物や設備のメンテナンスが必要で手間のかかるものでもあります。
「エアコンが壊れた」
「雨漏りが発生した」
借主からこのような連絡が来たら、貸主である大家は対応しなくてはいけません。
建物や設備を修理するのにかかった費用は、確定申告で「修繕費」として申告する必要があります。しかし、場合によっては修繕費として認められない支出もあるので、意外とその判断は複雑なのです。
そこで今回は、大家が支払うべき修繕費と、その経理上の特性について解説します。
賃貸物件で大家が負担すべき修繕の範囲
大家が持っている物件に、入居者が賃料を支払い入居し、生活する。その際に、大家と入居者の間で交わされるのが賃貸借契約です。
この契約では、大家と入居者がそれぞれ果たすべき義務について取りまとめられており、大家に課されている義務の一つが「修繕義務」です。
賃貸として提供した建物や設備に不備が発生し、修理しなければ入居者が安全に生活できないという場合、大家はそれを修理しなくてはいけません。代表的なのは次のようなものです。
・雨漏り対応
・給湯器の故障
・トイレの故障
・エアコンの故障(エアコン付き物件の場合)
・経年劣化、自然劣化による損耗箇所 など
これらの修繕は、貸し出した時の状態まで復旧すればよく、エアコンが壊れたからといって必ずしも最新のエアコンに取り替える必要はありません。
また、賃貸借契約を結ぶときに「特約」という形で、入居者にある程度の責任を持ってもらうこともできます。電球の交換や、蛇口のパッキンの取り替え、畳の交換も特約に記載できるケースもあります。
修繕費とは?
賃貸物件を維持するためにかかった費用は、「修繕費」という経費として取り扱います。
修繕費の内容は「建物本体」「設備」「共用部分」の大きく3つに分類されます。
建物本体:屋根、外壁、内装、基礎、構造(柱や梁)
設備:キッチン、浴室、トイレ、給湯器、エアコン、電気設備、ブレーカー、水道管、ガス管など
共用部分:廊下、階段、エントランス、エレベーター、駐車場、ゴミ置き場など
具体例を見てみると、修繕費に該当するかどうかの判断は、シンプルなように思われます。しかし、同じ「建物を修理する」という場合でも、修繕費に該当しないケースがあるので注意しなくてはいけません。
修繕費と資本的支出の違い
修繕費と似た言葉に「資本的支出」というものがあります。どちらも建物の維持管理に関わる費用ですが、税務上の扱いが異なっています。
修繕費は、建物の価値を維持するための費用であり、経費として計上できます。一方、資本的支出は、建物の価値を高めたり、寿命を延ばしたりする費用であり、減価償却の対象となります。
具体的にどのような違いがあるのか、確認してみましょう。
•壁紙の張替え: 経年劣化による汚れや破れを修繕する場合 → 修繕費
•外壁塗装: 築10年経過による劣化を修繕する場合 → 修繕費
•浴室の全面改装: 最新設備を導入し、浴室のグレードを上げる場合 → 資本的支出
•屋根の葺き替え: 耐久性の高い素材を使用し、屋根の寿命を延ばす場合 → 資本的支出
行った工事が「建物の維持」を目的としているのか、それとも「建物の価値を向上させる」ことを目的としているのかの違いです。
賃料を上げるため、建物の見栄えを良くするだとか、良質な設備に入れ替えるという場合にかかった費用は、税務上、減価償却として扱う必要があるのです。
減価償却とは?
減価償却とは、建物などの固定資産を長年使用することで、その価値が徐々に減少していくことを会計的に表現する方法です。建物の取得費用を、その耐用年数にわたって少しずつ経費として計上していくことで、収益と費用のバランスを適切に保っています。
減価償却の方法
減価償却の計算方法はいくつかありますが、主なものは以下の2つです。
•定額法: 毎年同じ金額を減価償却費として計上する方法。
•定率法: 取得価額に一定の率を掛けて減価償却費を計算し、毎年減っていく方法。
耐用年数
耐用年数とは、資産が使用できる期間のことです。
原価償却の計算をする際には、購入したものの耐用年数を調べて、かかった金額をその年数で割りながら、数年~数十年かけて計上します。
耐用年数は法律によって定められているので、減価償却に該当する物品を購入したら、必ず経理上の耐用年数を確認しましょう。
修繕費の計上時期
では、修繕費を計上するには、どうしたらいいのでしょうか。まずは計上するタイミングですが、2パターンあります。
•現金主義: 実際に修繕費を支払った時に計上する方法
•発生主義: 修繕が発生した時に計上する方法
どちらの方法を採用するかは、大家の会計方法によって異なります。
確定申告における修繕費の扱い
確定申告では、修繕費は必要経費として計上できます。
確定申告書Bの「不動産所得」の欄で修繕費を申告することで、必要経費として収入から差し引かれます。
修繕費を必要経費として計上するためには、依頼した工事や、購入した物品について領収書が必要なので、必ず保管しておきましょう。
※参照:国税庁「第8節 資本的支出と修繕費」
まとめ
修繕費に関する疑問や、入居者との修繕トラブルが発生した場合は、すぐに税理士や不動産コンサルタントなどの専門家に相談することをおすすめします。
特に、入居者とのトラブル解決においては、法知識や過去の判例に詳しい専門家から、対応についての判断を仰ぐ方がいいでしょう。
これから3月・4月に向けて、賃貸市場が活発になる時期です。生活環境のよい部屋は入居者がすぐに決まります。選ばれる物件であるためにも、修繕はこまめに対応しておくべきですし、賃料を引き上げたいのであれば付加価値向上のリフォームを行う人もいるかと思います。
これにかかった経費が「修繕費」になるのか、それとも「資本的支出」になるのかは、専門家であっても意見が分かれるケースもあり、判別が難しくなりがちです。また、資本的支出の場合は減価償却で計算しなくてはいけないので、これまた複雑なものです。
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