認知症と不動産相続の課題について
2025年、日本は超高齢化社会(人口の5人に1人が75歳以上)に突入しますが、高齢者が多くなると必然的に増えてくるのが認知症患者の問題です。
認知症患者から不動産を相続するとなった場合、また、相続する人が認知症だった場合、どのような課題があり、どんな手続きが必要になるのでしょうか? 今回は、認知症と不動産相続にまつわる問題について解説していきます。
認知症になるとどうなるのか?
認知症とひとくくりに言っても、その種類はさまざまです。
最も一般的なのがアルツハイマー病で、全認知症患者の60〜80%を占めています。
他にも、血管性のものや、異質タンパク質の蓄積によるものもありますが、共通するのは「脳機能の低下により日常生活に支障をきたす」という点です。
記憶力、判断力、言語力に困難が生じるため、さまざまなトラブルに巻き込まれる可能性があります。
被相続人(資産を引き渡す人)が認知症の場合の不動産相続
まずは、亡くなった方が認知症であったという場合です。この場合に問われるのは、「故人が生前遺した言葉は正当性があるものなのか?」という点になります。
遺言書の確実性
相続において、有効性のある故人の生前の言葉というのは、「遺言書」のことです。
遺言書を作成した時、本人に十分な判断力、意思決定能力があったかどうかが重要になります。
遺言書の内容に納得のいかない相続人が現れたとしましょう。遺言書の有効性に疑問があるとして、その相続人が訴えた場合、家庭裁判所でその事象を判断することになります。
家庭裁判所では、遺言書を書いた当時、故人の意思決定能力がどの程度あったのか、認知症の進行状況や遺言書の内容から判断します。
生前贈与の確実性
遺言書と同じく生前贈与についても、その当時、十分な意思決定能力があったかどうかが問われる可能性があります。
その贈与契約が認知症進行後に結ばれたとなれば、生前贈与が無効になる可能性が高くなります。
公正証書にしておくことが大切
生前贈与契約や遺言書の有効性が問題にならないようにするためには、これらの内容ついて公正証書として残しておくことが大切です。
公正証書とは、公証人という第三者によって公的に内容が証明された書面のことです。
公正証書は証拠として非常に高い効力を発揮するので、遺言書などがあれば、認知症が進む前に作成し、残しておくことがおすすめです。
※参照:法務省「公証制度について」
そのほかは、一般の相続と同じ扱い
なお、被相続人が認知症だった場合に問題視されるのはこの点ぐらいで、その他については通常の相続と変わりません。
遺言書があればそれに従って相続を行い、遺言書がない場合は、遺産分割協議を行って決めていきます。
相続人(資産を受け継ぐ人)が認知症の場合の不動産相続
被相続人が認知症であった場合のそれとは違い、相続人(資産を受け継ぐ人)が認知症となると、多くの課題が生じます。
というのは、当人がさまざまな法律上の手続きを行うことが困難になるからです。
遺産分割協議が行えない
被相続人が亡くなると、原則として故人の資産は凍結されます。銀行の預貯金は引き出せなくなり、不動産も処分することができません。
この凍結を解除するには、相続人全員による「遺産分割協議」を確定させることが必要になるのですが、認知症の方はこの協議に参加できない可能性があります。遺産分割協議も法律行為となるため、きちんとした判断能力が必要だからです。
相続放棄ができない
相続を放棄することも、法律行為の一つです。そのため、認知症の相続人が相続放棄をすることはできません。例え小さな土地であっても、いらないからと言っても、本人の発言・手続きによって放棄することができないのです。
「法定後見人制度」を利用する
認知症の方が遺産分割協議などの法律行為を行う場合には、「法定後見人制度」を使うことで可能になります。
法定後見人とは、判断能力が低下している人(認知症患者や障がい者など)のために、本人に代わり法律行為などを行う人のことです。
家庭裁判所が後見人を選任しますが、後見人の多くは親族以外、また、弁護士や司法書士などの法知識を持った専門家が選ばれることが多いです。法定後見人制度を使いたい場合は、家庭裁判所に申し立てましょう。
まとめ
認知症は非常に身近なもので、家族の中に認知症の方がいるという人も、全くめずらしくありません。判断力が低下すると、法律行為そのものが不可能として、無効という扱いをされることがあります。
相続というのは、遺された家族にとって法律行為の連続ですから、相続人が認知症だと、たくさんの問題が起きてきます。
その場合に活用するのが「法定後見人制度」なので、もし親族の中に認知症の方がいるなら、その手続きについては知っておいた方がいいでしょう。
また、不動産を単純に「法定相続分でわける」となると、妻と子のいる故人の不動産は配偶者と子供による共有状態になってしまいます。共有名義の不動産は、全員の承諾がなければ売却や賃貸ができないので、動かすことが難しくなってしまいます。
そのためにも、生前贈与や遺言によって、なるべくトラブルを減らそうとしている人が最近増えています。もし、不動産相続について、今後を見据えて準備がしたいという方や、相続でお困りの方は、専門家集団である税理士法人荒井会計事務所にご相談ください。